士業事務所経営:身近な課題から始める業務革新

はじめに

本稿では、お客様からちょこちょこ聞く機会がある以下の3つの課題について、ご紹介します。

  • 業務効率化を目指して、デジタル化・AI化に取り組みたいと思っているものの、クライアントが新しい会計のスタイルに拒否感があってなかなか移行できない
  • クライアントからの急な相談にどう対応すべきか
  • 人材育成と業務効率化の両立が難しい

    これらの課題に対する具体的なアプローチを、実例を交えてお伝えしていきます。
    身近なところから始める業務革新で、皆様の事務所の更なる発展をサポートできれば幸いです。

    1. 「うちは今のやり方で十分」クライアントへの対応

    ある事務所さまから、業務効率化を目指して、デジタル化・AI化に取り組みたいと思っているものの、「クライアントが新しい会計処理の提案になかなか興味を示してくれない」という悩みを聞きました。
    そのクライアントは、地元で⚪︎年以上営業している中規模小売店(年商3億円程度)で、オーナーからは「今のエクセルでの管理で特に困ってないし、新しいやり方を覚えるのは面倒だな」という反応がだったそうです。
    そこで以下のアプローチを試していただきました。

    解決アプローチ:

    1. クライアントの現状と課題の深い理解
    2. 具体的なメリットの可視化
    3. 段階的な導入プランの提案
    4. 成功事例の共有

    実践方法:

    1. クライアントの業務フローを詳細に分析し、現状の非効率な部分や改善可能な点を洗い出す。
    2. クラウド会計ソフト導入によるメリットを、時間とコストの観点から具体的に数値化して提示。例えば、「月次決算にかかる時間が50%削減」「ペーパーレス化による経費削減額は年間約10万円」など。
    3. まずは売上管理のみクラウド化するなど、部分的な導入から始めるプランを提案。
    4. 同業種・同規模の企業での導入事例を、具体的な改善効果とともに紹介。

    結果: その事務所さまは、このアプローチを丁寧に積み上げ、クライアントの理解を徐々に得ることができました。
    まずは、現状の分析から、メリットの理解。そして段階的にクラウド化をしていくことでハードルを下げ、売上管理のみのクラウド化からスタート。全体の浸透には6ヶ月の試用期間を設けました。
    その結果、日々の売上入力時間が1日あたり30分短縮され、月末の売上集計作業が不要になりました。
    この成功体験から、クライアントも前向きになり、7ヶ月後には全面的なクラウド会計ソフトの導入に同意。結果として、月次決算資料の作成時間が60%削減され、タイムリーな経営判断が可能になりました。その事務所さまは、単なる記帳代行ではなく、アドバイザーとしての役割も果たせるようになり、顧問料の増額にもつながりました。

    2. 急な資金繰り相談への効率的な対応

    「明日、金融機関と融資の話し合いがあるんだけど、急に資料が必要になった!」という緊急の相談は、多くの事務所が頭を悩ませる課題です。

    事例: ある会計事務所さまは、月末の確定申告の追い込み時期に、「明後日の銀行との面談に必要なんだ」と、主要クライアントから突然の資金繰り表の作成依頼が入りました。
    もちろん繁忙期のため、他のクライアントの確定申告業務で手一杯で、スタッフにも自身にも後々に影響が出る、大きな負担がかかってしまいました。

    解決アプローチ:

    1. テンプレート化された緊急対応キットの準備
    2. クライアントとの情報共有システムの構築
    3. チーム制の導入
    4. クライアント教育プログラムの実施

    実践方法:

    1. 資金繰り表、収支計画書など、よくある緊急依頼に対応できるテンプレートを事前に用意。
    2. クラウドストレージを活用し、クライアントの財務データをいつでもリアルタイムで共有・更新できる環境を整備。
    3. 緊急対応専門のチームを編成し、通常業務を止めることなく緊急案件に対応できる体制を構築。
    4. 長期的な効果を狙い、「決算書の見方」「資金繰り管理の基礎」などのセミナーを定期的に開催し、クライアントの財務リテラシーを向上。

    結果: その事務所では、これらの方法を着実に実践していき、緊急の資金繰り表作成依頼にも負担を軽減しながら2時間以内で対応できるようになりました。クライアントとの情報共有システムにより、最新の財務データにすぐにアクセスでき、その他の作業時間も大幅に短縮。結果として、繁忙期でも計画的な業務遂行が可能になり、スタッフの残業時間も20%程削減されました。

    3. 人材育成と業務効率化の両立

    「若手スタッフの育成に時間がかかり、ベテラン社員の負担が増大している」「繁忙期の残業が常態化し、働き方改革への対応が追いつかない」といった声は、多くの事務所が抱える内部課題です。

    事例: とある税理士事務所(スタッフ10名規模)では、ベテラン社員の退職や若手の早期離職が続き、残されたスタッフの負担が増大。特に確定申告時期には残業が常態化し、ワークライフバランスの悪化が問題となっていました。

    解決アプローチ:

    1. 体系的な研修プログラムの構築
    2. タスク管理のデジタル化
    3. 業務の標準化とマニュアル化
    4. フレックスタイム制の導入

    実践方法:

    1. 経験年数や役割に応じた段階的な研修プログラムを作成。OJTと座学を組み合わせ、計画的なスキルアップを図る。
    2. プロジェクト管理ツールを導入し、タスクの可視化と効率的な割り振りを実現。
    3. 頻繁に発生する業務や手順をマニュアル化し、誰でも一定水準の仕事ができる環境を整備。
    4. 繁忙期と閑散期の差が大きい業務特性を考慮し、フレックスタイム制を導入して柔軟な働き方を可能に。

    結果: その事務所では、このアプローチにより、以下のような成果が得られました:

    1. 新人スタッフの基本的なスキル習得期間が、従来よりも2割ほど短縮しました。
      また、それにより教育スタッフの負担も軽減。こちらは時間短縮以上にとても大きな意義がありました。
    2. タスク管理のデジタル化により、業務の進捗状況が可視化され、会議時間が1回あたり30分程削減。
    3. マニュアル化により、ベテランスタッフへの質問や確認作業が減少。
    4. フレックスタイム制の導入で、繁忙期の長時間残業が解消。スタッフの満足度が向上し、離職率が減少。

    さらに、これらの取り組みにより生まれた時間を活用して、スタッフが自己啓発や新しいサービスの企画に取り組むようになり、事務所全体の活性化につながりました。

    まとめ

    税理士・会計事務所には、クライアントへのサービス向上、緊急時の対応力強化、そして内部の人材育成や業務効率化など、多岐にわたる課題があります。
    これらのアプローチを参考に、皆様の事務所の状況に合わせたカスタマイズを行ってみてください。

    実際に課題解決を実践していくと、現場ならではの課題が浮き出てくることよくあります。
    そうした壁に当たった時は、いつでもお気軽にお問い合わせください。

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